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Interview.02
2026.06.22

【事例】後編:四国電力様の水路トンネル点検における改善のための第一歩

四国電力様との水路トンネル点検における取り組みについてお届けする連載企画の後編記事です。前編では、水路トンネル点検という過酷な現場の実態と、その中で作業を支える手段として検討された点検支援用モビリティの開発背景についてお伝えしました。

実際に、水路トンネルのような暗所や流水、不整地が連続する環境では、移動・確認・記録を同時に行う必要があり、作業負荷がかかっており、記録者の個人差で記載がばらついているといった課題が発生します。

後編となる本稿では、四国電力 再生可能エネルギー部土木グループ副リーダー 大石 佳伸様、再生可能エネルギー部土木グループ 池本 大樹様にもご協力いただき、試作した点検支援用モビリティを実際の水路トンネルへ持ち込み、現場での実証を通じて見えてきた挙動や課題についてお伝えします。搬入や組立、走行試験といったプロセスを通して、点検支援の仕組みがどのように現場に適合していくのかを整理します。

写真左より、四国電力 大石様、池本様

01現場条件が事前にすべて把握できない中での試作開発

今回の実証の舞台となったのは、愛媛県の面河水力センター管内の水路トンネルです。

山間部に位置する水路設備であり、トンネル内部は暗く、常に水が流れており、場所によってはひざ下まで水深があります。加えて、日本の水力発電設備は、昭和時代の前半に建設されたものが多く、「経年による洗掘」「改修工事」等で、路面は地形の凹凸や段差に加え、大きな石やがれきなどの障害物が存在するため、人が歩いて点検する場合でも注意を要する環境です。機械が安定して走行するには、より厳しい条件がそろっています。

こうした現場では、機材がトンネル内で動くことだけでは十分とはいえません。そもそも現場まで安全に搬入し、組み立て、運用できなければ、支援機材として成立しないためです。

今回の実験場所となった水路トンネルは山間部にあり、徒歩で移動する必要があった

水路トンネルは山間部に位置し、車で近寄れない場所が多くあり、徒歩で移動しながら機材を運搬する必要があります。こうした条件のもとでの運用を前提とするため、本件の試作開発は、事前に仕様を確定させるのではなく、実際の現場環境での検証を重視して進められています。

試作機を投入し、走行性や操作性に加え、搬入・組立といった運用面も含めて確認しながら課題を洗い出していく形です。現場での挙動や制約を踏まえ、その都度仕様を調整していくことが前提となっています。

今回の実証でも、まず行ったのは、試作機を水路トンネルへの入坑口まで搬入する作業でした。大きな機材については、人が担いでタラップで搬入することが難しいため、ロープを使って受け渡すなど、人力による慎重な作業が求められました。高低差がある箇所では安全帯を着用しながら進める必要もあり、運搬方法そのものが重要な検討対象となります。

実験現場での組み立ての様子

このプロセスから分かるのは、現場向けモビリティに求められる価値が、走行性能だけではないという点です。どれほど高い性能を備えていても、搬出入や組立が難しければ継続的に使うことはできません。一方で、持ち運びやすさや組立性を優先しすぎれば、悪路への対応力が不足する可能性もあります。

今回の取り組みでは、こうした現場特有の制約を前提に、分割搬入や工具を使わない現場での組立性を視野に入れた機材設計が行われています。現場で使える支援機材とするためには、性能と運用性の両立が求められます。

このような進め方は、完成された機材を一度に導入するのではなく、試作と実証を繰り返しながら最適化を図っていくプロセスです。水路トンネルのような条件下では、机上での検討だけで課題を把握することは難しく、実際に動かしながら確認していくこと自体が求められます。

02暗い水路トンネル内で、どう今後に活きる「映像と位置情報」を残すか?

搬入と組み立てを終えた後、試作機は実際に水路トンネル内へ投入され、走行しながら映像取得や位置把握の検証が行われました。機体には「走行部」「制御システム」「コントローラー」「走行と照明用のバッテリー」で構成されていて、バッテリーはDC24V電源で走行部と、照明用のAC100Vの供給が可能となっています。

あわせて、入口からどの程度進んだ地点かを把握し、後から映像と位置情報を対応づけて確認できるようにもしており、トンネル内では通信環境に制約があるため、その場での確認に加え、後から見返せる形で記録を残すことが前提となっています。

360度の方向にカメラを配置

実際の走行環境は一様ではなく、先述した凹凸や段差、水たまりが連続して現れます。凹凸や段差の状態が厳しい箇所もあり、比較的走行しやすいラインを選びながら進める必要がありました。

一方で、左右の路面状況にも差があり、片側が浮きやすくなるなど、走行中の姿勢変化も確認されています。
こうした条件下での走行試験を通じて、機体がどのように挙動するのかを具体的に把握していっています。

従来の点検では、現場状況を前回の点検記録で変化を確認するとともに、部分的ではありますが写真で記録を取っています。これに対し、映像を多面的に取得し、位置情報と結びつけて整理することで、現場に入っていない担当者でも後から状況を確認しやすくなります。複数の映像を並べて見比べながら異常の有無を確認していく運用も想定されます。

このように記録の再現性が高まることで、現場情報の共有がしやすくなり、点検の進め方そのものについても、属人性をなくしていけます。今回の実証は、単に走行性能を確認するだけでなく、点検の記録と確認のあり方を見直していくためのスタートラインとして位置付けています。

03実証によって、改善すべきポイントが具体化した

では、現地での実証はどのような点で意義あったのでしょうか。まず、現場の路面条件が機体の挙動にどのような影響を与えるのかが確認された点が挙げられます。

路面の凹凸では、片側のクローラーが落ち込み、もう片側が引きずられるような状態となり、走行が難しくなるケースが見られました。また、段差を通過する際には片側が浮き上がるような挙動も観察され、重心バランスや接地性、操縦性に関わる課題が具体的に把握されています。

このように、現場で実際に動かしたことで、どの条件で挙動が変化し、どの部分に改良の余地があるのかが明確になりました。

水路トンネルのような環境では、設備ごとに路面状況や水たまりの水深、段差の形状、搬入経路が異なります。そのため、最初から完成形を想定することは難しく、実際の現場での試行を通じて仕様を調整していかなければなりません。

今回の実証は、機体の性能を確認するだけでなく、現場条件に対してどのように設計を見直していくかという観点を具体化する目的があります。試作機を用いて実際に検証を行い、その結果をもとに改善を重ねていくという進め方自体が、本取り組みの前提となっています。

04現場DXの第一歩は、活用できるデータをためること

加えて、今回の取り組みは、何も単なる点検支援機の試作だけを目的としたものではありません。

四国電力様では、保守・点検業務の効率化や高度化に向けた取り組みが進められており、水力発電設備においても、現場での確認が必要な業務をどのように見直していくかが重要なテーマとなっています。

主機や周辺機器については監視装置による省力化が進められる一方で、現地での直接確認が必要な領域については、データ活用を前提とした検討が進められています。

こうした流れの中で重要になるのが、現場の状態を適切に記録し、後から活用できる形でデータを蓄積していくことです。現状は結合したアクションカメラの動画データをモニターに並べて解析することで360度様子を把握するところから始める予定となっています。

「将来的にはAIを活用して画像解析や異常検知といった高度化を進めたい」とも四国電力 大石様は仰っていました。

一方で、ご要望としていただいたAIによる画像解析や異常検知を進めるには、前提として解析すべき画像や動画が現場で安定して取得され、位置情報と対応づけて蓄積されていることが必要です。

ヤマハモーターエンジニアリングが今回担ったのは、まさにその「活用できるデータを現場で取得できる体制」をモビリティで後押しすることでした。

今回の取り組みでは、水路トンネル内を走行しながら映像と位置情報を取得し、それらを対応づけて確認できる状態をつくることを試みています。

一方で、水路トンネルのような現場では、データを蓄積すること自体に負荷が伴うものです。暗所や湿潤環境、不整地、長距離移動といった条件の中で、人が歩いて点検を行いながら安定して記録を残すことは容易ではありません。

こうした状況において、移動や記録取得を支援する手段としてモビリティを活用することには意味があります。

現場での作業を支えながら、必要なデータを継続的に蓄積していく。その体制を整えることが、今後の業務改善や高度化を実現するのです。

本取り組みは、直ちに点検体制を置き換えるものではありません。しかし、映像と位置情報を対応づけて残せるようになれば、これまで現場で分担していた確認・記録業務の進め方を見直していけるでしょう。

四国電力 大石様も「将来的には従来複数人で対応していた点検業務を、現状より少ない人数で対応できるイメージが見えた」と仰ってくださいました。まずは記録の取り方を整えたうえで、運用の見直しにつなげていくことが、段階的な省力化の現実的な進め方といえます。

一方で、現場実証で手応えが得られた点もあります。

水路トンネルへの入坑後、現場で組み立てる際の作業性を考慮した設計仕様について、現地テスト後のアンケートでは「工具レスで組立可能な仕様としたことで、現場作業が楽になった」と、四国電力様にご評価いただきました。

「搬入性」と「走行性能」の両立という、冒頭で述べた難題に対して、「現場で実際に組み立てて使う人」の目線に立った仕様開発は現場で機能したといえます。

今後は、改善余地がみえた走行性能面と、評価を得た現場適合性の両方を踏まえながら、次の試作へとつなげていきます。

関連記事:人手不足に挑むー段階的モビリティ導入のすすめ助人から省人化へ、現場に寄り添う現実的アプローチ

05現場改善に終わりがないからこそ、試作に意味がある

今回の実証を通じて、いくつかの改善の方向性が具体的に見えてきました。

ひとつは、走行性能に関する点です。横方向の溝や段差への対応、足回りや重心バランスの見直し、接地性の改善など、現場の路面条件に応じた改良余地が確認されています。

もうひとつは、取得したデータの扱い方です。映像と位置情報を整理しやすくすることで、現場に入っていない担当者でも後から状況を確認しやすくなり、点検の精度の向上にもつながります。

「今後、取得したデータについては、社内報告の作成などにも活かしていきたいですね」とは、大石様の弁。

このように、より先の未来を想定すると、データを活用した各種業務の高度化もみえてきます。ただし、前述したように、その前提として現場で安定してデータを取得し、蓄積できる状態を整えることが必要です。

まずは記録の取り方を整え、そのうえで比較や分析へとつなげていくことが求められます。

加えて、四国電力様からは、開発プロセスにおけるコミュニケーション体制についても評価をいただいています。一般的に、モビリティや機材の開発を外部委託する場合、窓口となる営業担当者が開発内容の詳細まで把握していないと、なかなか話が前に進みません。

これに対し当社では、開発内容を把握したエンジニア自身が窓口を担当するワンストップ体制を採っており、「窓口が一気通貫で助かった」「スピーディに話が進む」とのご評価をいただきました。

現場を起点とした試作開発では、仕様変更に関する判断が頻繁に発生します。その都度、ジャッジできる人間が直接対話できる体制そのものが、「まず試作してみる」というアプローチを機能させる前提になっているのです。

水路トンネル点検のように、環境が厳しく、作業負荷が大きく、記録の重要性も高い現場では、こうした進め方こそが大切なのです。

当社ヤマハモーターエンジニアリング株式会社new windowでは、助人モビリティによって現場を支えながら、試作・検証・改善を繰り返し、現場に合った形へ具体化していく総合エンジニアリングサービス「MOBILITY KŌBŌ(モビリティ⼯房)」を提供しています。

現場負荷の大きさや属人化、記録の残し方に課題を抱える業務であれば、いきなり完成形を求めるのではなく、まずは小さく試し、改善を重ねていきます。

今回は水路点検向けのモビリティの試作事例でしたが、当社ではお客様それぞれの現場ニーズに沿ったモビリティのご提案が可能です。

本取り組みに関する詳細やご相談は、下記お問い合わせ先よりお気軽にご連絡ください。

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